2010年5月11日火曜日

チェスをする二人・・・3

5月6日
連休も終わり町の雰囲気も人々の心にも喧噪の後の静けさが戻ってきたように感じられる。
駐車場も釣り場もすいているに違いない。
今日こそ釣りをしようと計画を立てた。
仕掛けはシンプルに、ねらいはメジナである。
おもりはよりもどしだけにし、2号のハリスに一つの針。
塩漬け冷凍保存しているオキアミを餌にし、今日はこませもやめよう。
こませが面倒なこともあるが、大量のこませが海を汚しているのも事実だ。
大漁が望みではない。
静かな魚と対峙する時間が、悟りを開くための座禅に似て、精神の集中と無我の境地へ誘ってくれる。
太陽が伊豆山にかかる頃、波間に踊る日の光も黄色くなり、やがて黄金色に変化する。
子供の頃から水辺の夕まずめが好きだった。
風がやみ、夕闇を迎えようとするとき浮子の気配が増大する。全神経が魚との対峙に集中し陶酔に似た時間を迎える。
今日は5時から釣りを始めようと夕餉の買い物をする家内を誘って出かけた。
あわよくば食事の前にメジナの刺身で晩酌をしようともくろんでいた。
釣り場の手前にたむろす数匹の野良猫に目をやりながら釣り場の上の道路に降りると、なんとあの二人が前と同じ場所で、同じポーズでチェス盤を囲んでいるではないか。
意外だった。今日は平日なのに。
釣り竿を杖にして立ち止まり
「今日は!」
と声をかけた。
にこやかに振り向いた青年は
「あの本探したけど売っていませんでした。次はもっと大きい本屋で探してみようと思います。」
「あの本は50年も前に読んだもので再販されていないかもしれませんね。ツバイク全集があればその中にあるかもしれませんが」
私も解決の道が見あたらず力のない返事をした。
私は勝負事の野次馬になるのが好きで、色々ヤジを飛ばしてひんしゅくを買うのが常であった。
しかし、今、目の前で展開している勝負は駒が小さくて目の悪い私には盤面を読むことが出来ない。従ってヤジを飛ばすことなく釣り場に向かった。

続く・・・南視


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